共同通信 2008年6月19日配信 6月20日 各紙朝刊掲載 (主な内容)
◎敗戦後、慰安婦を看護婦に
旧軍の命令、文書で初確認
「特別な関係」の事実補強
従軍慰安婦問題では、政府の謝罪や補償の根拠となる当局の関与の度合いが問題となっており、今後の議論に影響を与えそうだ。「看護婦」とすることで、当局が慰安婦の存在を連合国側から隠ぺいしようとした可能性も指摘されている。
慰安婦を看護婦としたことは元兵士らの証言や、オーストラリア人ジャーナリストの著書の中で出典不明で紹介されたことがあったが、その命令が原文に近い形で確認されたのは初めてとみられる。関東学院大の林博史(はやし・ひろふみ)教授(現代史)が英国立公文書館で発見した。
英公文書によると、東南アジア方面に派遣された第一南遣艦隊司令長官からサイゴン第一一特別根拠地隊などにあてた一九四五年八月十八日付の通達で、シンガポールで海軍の「慰安施設」で働いていた多くの少女が、海軍第一〇一病院で補助的な看護婦として雇用されたと指摘。サイゴンでも「同様の措置」をとるよう命じた。
また、同二十日付の「第八通信隊」から海軍民政部の全責任者に出された通達には、「全地区の日本女性」を看護婦の資格で病院に割り当てるよう指示。内容を理解した後、その通達電文を「完全に焼却」するよう付け加えた。
林教授ら研究者によると、軍が慰安婦を看護婦として雇用した理由としては、引き揚げ時の手続き面などで慰安婦より看護婦の方が都合が良かったことなども考えられる。また、命令の中で言及された「日本人」には朝鮮半島出身者も含まれていたとみられるという。(共同)
解説
◎慰安婦隠し≠ェ狙いか
法的責任認めぬ日本政府
第二次大戦時の慰安婦らを敗戦直後に補助的な看護婦として雇用するよう旧海軍が命じた通達の狙いは、都合の悪い慰安婦の存在を連合国側に隠そうという慰安婦隠し≠フ意図があった可能性が考えられる。
従軍慰安婦問題では、韓国などの元慰安婦らは今も、日本政府に謝罪や賠償を要求している。しかし、日本政府は旧日本軍の一定の関与と道義的責任は認めつつも、二国間条約などで解決済みとして法的責任は認めていない。
国連人権委員会は一九九六年、元慰安婦への賠償を勧告したほか、国際人権団体は従軍慰安婦問題を「性奴隷問題」と追及。欧米の議会などでは最近も対日非難決議が続くなど、国際社会で日本の立場が広く受け入れられているとは言い難い。
今も慰安婦隠し≠続けているという国際的な批判を避けるためには、元慰安婦らの声に耳を傾け、新たな立法措置など十分な対応をする必要がある。
ある高齢のオランダ人元慰安婦は昨年十一月、国際人権団体がロンドンで開いた会合で「お金の問題ではない」と強調。自分が非人間的な扱いを受けた明確な理由をいまだに日本側から得られていないなどと訴えた。(共同=上西川原淳)
▽一九四五年八月十八日、第一南遣艦隊司令長官からサイゴン第一一特別根拠地隊などあて
一、シンガポールの海軍「慰安施設」に関して、日本人従業員は海軍第一〇一病院で雇用されることになった。より多くの少女が補助的な看護婦とされた。これと同様の措置をとるようにせよ。
▽同二十日、第八通信隊から(海軍)民政部の全責任者あて
一、全地区の日本女性を地方病院(第一〇二病院または民政部病院)に看護婦の資格で割り当てよ。(この電文は完全に理解後、焼却せよ)
(共同)