<2002年6月21日 『沖縄タイムス』夕刊 6面>

米軍が日本海軍の暗号解読/沖縄戦時
林関東学院大教授、資料を入手

 一九四五年の沖縄戦当時、日本海軍の暗号通信を米海軍が傍受・解読した資料を林博史関東学院大学教授が、このほど米国国立公文書館から入手した。資料では、スパイに関する情報の本土への送信、宮古島での日本海軍の食糧保管数などが詳細に記されている。このほか、米海軍が南大東島で新型爆弾二種類を実験として投下した記録も見つかった。林教授は「海軍に関する情報が少なく、沖縄戦史の貴重な資料になるのでは」と話している。

 暗号解読の資料は、四四年三月から四五年十月まで、日付や項目ごとにカードで分類されている。約六千枚に上る。

 四五年四月七日午前九時十四分に、日本海軍が本土に向け「日本人の服装をしたスパイを多数逮捕。今後は厳重な注意が必要」と電報を打っている。林教授によると電報を打ったのは、日本海軍沖縄方面根拠地隊司令官の大田実中将で、軍トップの記録が出てきたのは初めてという。具体的な人数に関しては記録されていない。

 六月六日には、根拠地隊の残存人数として、将校三百四十七人、兵隊六千七百五十八人、軍属二千九百九十五人との通信も傍受している。

 宮古島の食糧備蓄については、四五年四月十六日に「宮古島 在庫 米百四十五日分(二千六百三十六人) 乾パン三十日分、その他の食糧三十日分」。五月二十二日では「二千六百三十二人に米百八日軍、副食百二十八日分」となっており、食糧事情が厳しく島民が苦しむ中、海軍が長期戦に備え、かなりの食糧を抱えていたことが明らかになった。

 南大東島の爆弾実験は、四五年六月九、十の両日、米海軍艦隊の戦闘機が、VT―fused(時限信管付き)爆弾とナパーム弾を投下。資料では、使用した量は九七・五五d。ナパーム弾は四十六タンクと記されている。

 VT弾は、砲弾内に発信機を組み込み、標的に電波を当てて、近づくと爆発する爆弾。ナパーム弾は爆発すると高温を発し広面積を瞬時に焼き尽くす威力を持つ。今回の資料では、この実験結果がどのように活用されたのかは、分かっていない。

 このほか、四五年九月には、ポリネシア諸島のポナペ島にいた日本人六千四十五人のうち、沖縄関係者が三千四百六十八人などの資料もあった。

 林教授は、米海軍の暗号解読が空欄や「?」印、解釈の間違いなどがあり、必ずしも正確なものでないとしながらも「かなりの情報が米側に漏れていた。今後は陸軍などの資料を発掘できれば、さらに詳細な戦史が明らかになるのではないか」と述べ、調査を続ける考えを示した。