『季刊戦争責任研究』(日本の戦争責任資料センター)第41号、20039

 

資料紹介 

 アメリカが分析した日本人の天皇観

 

  編・訳 日本の戦争責任資料センター研究事務局

         (文責・訳 林博史)


 われわれ日本人はいまだに天皇制の呪縛から解放されていないのではないか、主体の形成を麻痺させる麻薬の役割を依然として果たしているのではないかという懸念を感じています。
 なおここでは解説のみを掲載します。資料をご覧なりたい方は、『季刊戦争責任研究』でお読みください。   2006.6.22記


【解説】

 アジア太平洋戦争中、アメリカ軍は捕まえた日本兵捕虜を尋問してさまざまな情報を取っていた。同時に、戦場でも日本軍の文書の捕獲に努め、捕獲した文書はただちに読んで検討していた。こうしたことから得られた情報はその内容に応じて、あるものは直ちに英訳されてレポートにまとめられ関係する部隊に配布され、あるいは後方に送られてさらにくわしい分析に回されることもあった。そこでは当面必要な軍事情報から、日本軍の占領地や日本本土の軍事・政治・経済情報や民衆の意識まで実に多方面の情報が収集され分析されていた。日本軍の文書という場合、軍の命令書や陣中日誌などの公文書は言うまでもないが、将兵個人の日記も重要な情報源だった。それらの日記には公文書からはうかがえない情報が含まれていた。特に将兵たちの意識や士気に関わる情報である。米軍による心理戦、特に日本軍将兵の戦闘意欲を奪い、できれば投降を引き出そうとするうえでそうした情報は重要であった。

 それらの情報は戦争を遂行するうえで必要な情報であったが、そのなかで収集された情報は戦後においても重要な意味を持つこととなった。とりわけここで紹介するように、日本人が天皇・天皇制についてどのように考えているのかに関する生の情報が詰まっており、日本を占領したアメリカにとって天皇・天皇制をどのように扱うのかを考える上で貴重なデータであった。

 ここに紹介する資料は、アメリカの戦時情報局が終戦直後の一九四五年一〇月に作成したレポートである。戦争中に収集した捕虜からの尋問調書や捕獲した文書のなかから天皇・天皇制について言及したものを集めて分析したものである。個々の捕虜の意識分析にとどまらず、広くデータを集めてその特徴を導き出そうとした点にこのレポートの意義があるだろう。

 訳者がこのレポートを読んで興味深く感じたのは、それぞれの日本人が自分の思いを天皇に託して見ているということである。神聖化された天皇というものは中味が空虚なものであることによって、各人それぞれが自己の期待を投影させることができる、つまり戦争に反対する者は、天皇も戦争に反対であり軍国主義者によってだまされただけであると思い込む、軍国主義者は西洋のくびきから東洋を解放する戦争を天皇も承認したのだと思い込む、という具合に。天皇は必ずしも熱狂的な軍国主義のシンボルであるだけではないという認識は、象徴天皇制として残し利用するという政策とつながるであろう。

 このレポートを作成した者が具体的に誰なのか、このレポートがマッカーサー司令部や米本国政府の政策決定にあたってどれほど利用されたのかどうか、などまだわからないことが多い。本誌の張論文との関係でも興味深い問題であるが今後の課題としておきたい。

 この資料の原題は、Interim International Information Service,(OWI),Foreign Morale Analysis Division, Report No.27, The Japanese Emperor, October 31, 1945(米国立公文書館所蔵RG165/Entry172/Box335)である。OWIとは戦時情報局Office of War Informationのことである。なおこのレポートは表紙と目次を含めて計六二頁であるが、スペースの制約のために訳出したのは三分の一にも満たない。選択した箇所は、このレポートの作成方法がわかる部分と全体の結論部分、ならびに象徴天皇制との関係で興味深いと訳者が判断した部分の一部でしかない。参考のために全文の目次とそれぞれの章の枚数を記しておいた。たとえば「4 天皇への信頼、献身、忠誠」は一三頁と最も長い章であるが、導入部分以外は全部省略している。(文責・訳 林博史)

 【訳注】捕虜からの尋問に出てくる言葉でEmperorは「天皇」、Imperial Institutionは「天皇制」と訳した。前者について、日本兵はおそらく「天皇陛下」「陛下」などいう言い方をしており「天皇」と呼び捨てにすることはないだろうし、後者は「国体」などの言い方をしていると思われるが、ここでは意味からそのように訳しておいた。

 

【資料】

戦時情報局海外士気分析部 臨時国際情報サービス

レポート NO27  「日本の天皇」一九四五年一〇月三一日

【目次】

1 序論 2

2 主な結論1

3 利用した資料の分量と由来、編集における限定要因2

4 天皇への信頼、献身、忠誠(略)13

5 平和の人としての天皇2

6 騙された天皇2

7 自由主義者ならびに民主主義者としての天皇2

8 敗戦のなかの天皇(略)2

9 天皇への攻撃についての心配(略)3

10 天皇が排除されることへの心配(略)9

11 戦争指導者としての天皇(抄)4

12 天皇制への反対(抄)5

13 戦争における士気のための天皇の利用

(略)8

14 結論的所見5

 

以下資料は略

 

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