『季刊戦争責任研究』(日本の戦争責任資料センター)第30号、200012  

(抄録)

資料紹介 フィリピンにおける日本軍の性暴力

  ―『日本占領下フィリピンにおける日本軍性暴力史料集』

                                林 博史


 防衛庁防衛研究所図書館に所蔵されている、フィリピンにおける日本軍の性暴力について市民グループが徹底して調査をおこない、関連する資料をまとめて掲載した資料集についての紹介です。こうしたすぐれた仕事をおこなった市民に敬意を表したいと思います。ここに掲載したのは私の書いた解説だけです。  2004.12.8記


[解説]

 「慰安所」制度をはじめとする日本軍による性暴力については、近年、南京大虐殺や中国山西省でのケースについて調査研究が進められている。しかし中国と同じように日本軍に占領された東南アジア地域についてはまだわからない部分が多い。陸軍省医事課長金原節三の業務日誌の中で、フィリピンにおいて強姦事件が頻発し軍中央においても問題にされていたことがわかっている(本誌創刊号の吉見論文参照)。これまで知られていることから推測するに、おそらく東南アジア地域の中では、住民虐殺や強姦をはじめとする住民に対するさまざまな残虐行為が最も規模が大きくひどかったのがフィリピンではないかと思われる。フィリピンにおける日本軍の性暴力については、鈴木裕子氏の論文「日本占領下フィリピンにおける『戦地強姦』と『慰安婦』」(『女性・戦争・人権』創刊号、一九九八年)があるが、まだまだ解明は遅れている。

 こうしたなかで日本軍「慰安婦」=性奴隷制問題に直面した市民が、「女性であり加害国の市民」として何ができるのかと考え、取り組んだのが、防衛庁防衛研究所図書館に所蔵されている旧日本軍の資料を徹底的に洗い直し、性暴力に関わる資料を掘り起こす作業だった。この市民グループ「戦時性暴力調査会」による資料調査の中間報告を内部資料として整理したのがこの『日本占領下フィリピンにおける日本軍性暴力史料集』である。
 日本軍の慰安所に関わるもの(慰安所の規定やそれに関わる軍の通牒、指示など)、強姦など日本軍による性暴力に関わるもの(日本兵の性非行の報告、強姦被害者からの訴えなど)、フィリピン側の反応(ゲリラの宣伝物、検閲した手紙に記された日本兵の性暴力など)、日本軍の性病の実態、「慰安婦」の性病検査報告、ならびにマパニケ村の討伐命令の資料など計一二七点が含まれている。

 慰安所に関わる旧日本軍資料については、すでに日本政府が調査をおこないその結果を一九九三年に発表している。しかしかなり大雑把な調査で漏れているものがたくさんあった。日本の戦争責任資料センターでは独自に調査をおこない政府調査では漏れている資料を多数見つけて、それらを一九九三年九月に発表している(本誌創刊号に掲載)。ただそこでの調査では、日本軍の慰安所・「慰安婦」に対象を絞ったので、性暴力全般に関わる資料までは十分に拾いきれなかった。それに対してこの「戦時性暴力調査会」による調査は性暴力に関わる資料を徹底的に収集しようとしたものである。その結果、吉見義明氏が編集した『従軍慰安婦資料集』(大月書店)や本誌各号には掲載されていない資料がたくさん発見されている。

 たとえば、フィリピンに派遣されている軍内部でも日本兵による性非行がくりかえし問題にされていることがわかる。また強姦の被害者からの調書や、民間人の手紙を検閲しそのなかに記されている日本軍のさまざまな残虐行為の記述を抜粋したものなど、フィリピン民衆の側の反応が興味深い。

この仕事は市民の自主的な取り組みが生み出した成果であり、その粘り強い取り組みに敬意を表したい。
 ここでは「戦時性暴力調査会」の了承をえて、この史料集のなかからいくつか興味深い資料を紹介したい。ここに紹介する資料の選択は本誌編集部がおこなった。以下、@資料の内容を示す見出し(原資料のタイトルではない)、Aその資料が含まれているファイル名、B資料からの抜粋、の順に掲載する。(なおこの史料集についての問い合わせは本センター事務局まで)。

 

 【資料】 9点  略

 

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