『季刊戦争責任研究』(日本の戦争責任資料センター)第38号、200212

 敗戦時の公文書廃棄についての資料(補遺)

                   林 博史


 『季刊戦争責任研究』第37号(2002年9月)に書いたものへの補遺です。ですから第37号のものと合わせてご覧ください。第37号の入手方法については末尾のご案内をご覧ください。 2004.5.18


 本誌三七号の拙稿「進展するアメリカの戦争関係資料の公開」の「四 敗戦時の公文書廃棄」において、敗戦時に公文書の廃棄を命令した暗号電報について紹介した。そこで紹介した資料はいずれもMagic Far East Summary「マジック―極東サマリー」と題された資料に含まれているものである。その後、二〇〇二年夏の本センターによる資料調査のなかであらたな関連資料が出てきたので、前号の補遺として紹介しておきたい。

まず資料Aの二点の資料について説明しよう。「マジック―極東サマリー」は解読電報の抜粋を集成したものであるが、これらは解読電報の全文である。つまり「マジック―極東サマリー」の基にある資料群であり、さらに徹底して調査すればまだまだ出てくる可能性がある。いずれも日本海軍の暗号電報の解読資料である。A―1のなかに天皇の不利になるような文書を処分するように命じているのは、ここまで明言しているものはめずらしい。

次の資料Bの三点は、Magic-Diplomatic Summary「マジック―外交サマリー」と題された資料である。この資料は日本の国会図書館憲政資料室にも入っているが、当初公開されたときには機密指定されて見ることのできなかった頁が多数あったが、その後の機密解除の進行によって、憲政資料室の所蔵分では白紙の箇所も閲覧できるようになっている(まだ機密解除されていない箇所も残っているが)。

「マジック―極東サマリー」が主に日本の陸海軍の暗号電報を解読したものなのに対して、こちらは外交電報を解読したものである。ここでは在外公館における文書廃棄に関する電報を紹介したい。これは解読した暗号電報の抜粋あるいは要約なので、資料の形式が資料Aのものとは違っている。これだけでは在外公館での文書廃棄が東京からの指示に基づく行為か、在外公館の判断かは断定できない。しかし在外公館の文書を引渡すように求めるアメリカの要求に対して外務省がポツダム宣言の条項にはないので文書引渡しを拒否していることは、事実上、文書廃棄を認めたと言ってもいいだろう。

   

資料A―1 第二三根拠地隊発(司令部マカッサル、セレベス島) 指揮下部隊宛 一九四五年八月一六日一六時三九分発

 秘密文書は以下のように扱うべし

1 すべての古い暗号文献は、現在作戦部隊によって使用されているものを除いて廃棄すべし。将来使用するものは作戦が継続している間は廃棄せざること。

2 上記の「極秘」と機密指定された文書、ならびにもし敵の手に落ちたならば外交の観点から見て天皇陛下にとって不利益となるような文書以外の秘密文書、ならびに現在使用している文書は作戦が続いている間は、特に命令がないかぎり保持せよ。それら以外のすべての文書は焼却せよ。  ?????

3 作戦が停止された後は、現在使用中の暗号文献は焼却すべし。発行した機関の保持する、将来必要となるかもしれない文書については、敵の手に渡らないような措置を講じれば保持してよい。

 この電文を受領しその内容を理解し次第、焼却せよ。

(海軍による解読一九四五年八月一七日。RG457/Entry9014/Box132, SRN 105661.  

 

資料A―2 第一〇方面艦隊司令長官発(シンガポール) (各艦隊・部隊)主計官宛 一九四五年八月一八日一三時四七分発

 主計官宛

保持すべき、補給部門に関する文書の一覧は以下の通りである。下記に挙げた以外の文書は焼却すべし。

 1 総務関係

   人員名簿

   保持する必要のあるそれぞれの部隊に関する文書

 2 基金の経理に関わる現金受領書ならびに支払帳、費用明細帳、配給表、負債ならびに信用に関する規則抜粋

 3 物品の経理に関する帳面ならびに収入と支出の帳面

(海軍による解読一九四五年八月一九日。RG457/Entry9014/Box132,SRN 105783

 

資料B―1 Magic- Diplomatic Summary  16 August 1945  SRS1761

3 スイスのいくつかの日本文書の廃棄

 スイス時間八月一四日午後九時五九分(米東海岸時間一六時五九分)、ベルンの加瀬公使は次のように報告している。すべての暗号電報と秘密文書、ならびに公使館とジュネーブの総領事館が保持しているほとんどの帳簿は廃棄された。しかし「当面」、公使館は暗号機器を保持する。

 スイス時間一五日一一時二〇分(米東海岸時間一八時二〇分)、加瀬は東京に対して、今夜スイス外務省を通じてアメリカ政府からのメモを受け取ったと報告している。そのメモは―加瀬が伝えるところによれば―日本政府に対して、「中立国にある外交ならびに領事事務所にすべての財産と書類を連合国の代表に引渡すよう、ただちに指示せよ」と指令している。

 その五〇分後、加瀬は、フランスのかつての大使館の秘密会計記録のほとんどは廃棄されたが、ドイツの大使館の記録は東京からの指示があるまで保持されている、と東京に連絡した。

RG457/Entry9006/Box19. 以下B―2、3ともに同じBoxより)

   

資料B―2 Magic- Diplomatic Summary  17 August 1945  SRS1762

4 暗号と文書についてのハノイの指示

 八月一二日ハノイの大東亜省事務所はインドシナの他の事務所に対して次のように指示した。「暗号は保持せよ。しかし受領ならびに発したすべての通信の写しは焼却せよ」。「政治問題に関わるすべての文書は焼却せよ」。

 

資料B―3 Magic- Diplomatic Summary Part2   17 August 1945  SRS1762

2 外交財産ならびに書類を引渡せというアメリカの要求に対する日本の拒否

スイス時間の昨日午後六時三〇分(米東海岸時間一三時三〇分)、日本の外務省はベルンの加瀬公使に、中立国にある外交ならびに領事のすべての財産と書類を連合国の代表に引渡すように求めるアメリカの要求への回答を送った。その回答は―加瀬はスイス外務省に伝達するように指示されているが―、次の通りである。「この要求は、われわれが受入れたポツダム宣言のどの条項にも含まれていない以上、日本政府はスイス政府を通じて連絡してきたアメリカ合衆国政府のこの要求に同意することはできない」。

 外務省は加瀬に対して、スウェーデン、ポルトガル、アイルランド、アフガニスタンの日本使節にアメリカの要求と日本政府の回答を知らせるように依頼した。

 

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