関東学院大学経済学部総合学術論叢『自然・人間・社会』
                   第
45号、20087  

資料紹介

 サイパンで米軍に保護された日本民間人の意識分析

                    解説・訳  林 博史


           これは米軍文書の翻訳です。サイパンは、多数の日本民間人がいる島であり、そうした地域に米軍が進攻してきたのは初めてでした。そこから、保護した民間人の意識を調査分析した報告書が作られました。沖縄戦の前提として重要な分析であると思います。
 なお大田昌秀氏の『沖縄戦下の日米心理作戦』という本がありますが、その中では、沖縄戦以前には「対日本軍心理作戦を軍事作戦で展開することなど考えもしなかった」(同書157頁)かのような記述があり、沖縄戦以前から対日心理戦が積み重ねられその経験のうえに沖縄戦での心理戦があるということがまったく無視されてしまっています。沖縄戦以前の心理作戦に関する資料はすでにアメリカで大量に公開されていますが、それらをまったく調べることなく、上記のようなことを書いているのは残念です。 2010.5.15記


[解説]

 米軍は、アジア太平洋戦争において、心理戦の重要性を認識しそれを展開した。当初の太平洋の島々での心理戦では、島民を除けば、日本軍将兵に対する働きかけがおこなわれた。それは日本の民間人がほとんどいない地域だったからである。日本の民間人が多数いる地域での戦闘は19446月からのマリアナ諸島、つまりサイパンやテニアンなどでの戦闘が初めての経験だった。これらの日本民間人が米軍に対して、どのような態度をとるのか、日本軍と一緒に武器を持って最後まで抵抗するのかどうか、捕らえた民間人がはたして軍政機関に従順に服従するのかどうか、という問題は米軍にとって大きな関心事であった。民間人までもが徹底的に抵抗する事態になれば、戦闘は長期化し米軍にとっても損害が増加することになるのをはじめ、やっかいな問題になるからである。

 戦線が日本に近づくほど、そこにいる日本民間人も増えていく。サイパンでの経験は、これからの米軍の戦いにとって重要なデータが得られる機会であった。そこで米軍は収容した民間人の意識調査をおこない、その後の作戦に役立たせようとした。その調査の一つがここに紹介する報告書である。

 マリアナ攻略戦を担当したのは、海軍の太平洋艦隊兼太平洋方面軍司令部United States Pacific Fleet and Pacific Ocean AreasCINCPAC-CINCPOA)(司令官チェスター・W・ニミッツ)である。この司令部が沖縄戦も担当した。したがってサイパンでの日本民間人を扱った経験は沖縄戦にも反映されていると考えられる。特にサイパンには沖縄出身者が多数含まれていたので、調査にあたってもそのことが意識されていたようである。

 ここで紹介する報告書とは別に、太平洋艦隊兼太平洋方面軍司令部が19448月末にまとめた「心理戦」第1部・第2部(”Psychological Warfare,” Part 1 & Part 2)という報告書がある(米国立公文書館所蔵RG165/Entry79/Box520)。サイパン、テニアン、グアムを占領してからすぐに作成されたものである。

 ここでは心理戦は「戦闘宣伝」として位置づけられているが、その要旨を整理して紹介しておこう。

  宣伝は、直接には敵の抵抗を弱め、さらには敵軍の投降を促し、戦争を早く終わらせ、多くの命を救うためである。捕虜を取ることは、人道的であるだけではなく、非常に有益な軍事的に企てであり、貴重な情報を得られる。日本人の内面の自然な感情はほかの人種とも同じであり、狂信的な態度も確実に影響されうる。実際に捕虜になる率は増えている。日本兵はもし捕虜になったら、日本が戦争に勝って戦争が終わり、日本に戻ったときに軍法会議にかけられると思っていたが、日本が勝つことはなくなり、日本全体が捕虜になったような状態になると考え始めた。だから捕虜になることを拒み最後まで抵抗することをやめさせることが可能な状況が生まれてきている。また別の要素で重要なことは、日本守備隊の構成員には多くの軍人でない人々が含まれていることである。かれらは、現地住民であったり、徴用された日本人や朝鮮人労働者、民間の住民たちである。これまでの過去の経験から、これらの人々は少なくとも一部は中立的な立場をとらせるか、あるいはわれわれを支援するようにさせることができることが示されている。だから現地住民や朝鮮人に対する日本人の抑圧や、民間の日本人に対する日本軍人の伝統的な尊大な侍のような態度は、敵軍内の不和や不一致を生み出す上で強調される事実である。

 ここでの心理戦は、軍事的進攻の宣伝であって、文民機関である戦時情報局がおこなうような宣伝、つまり日本本土に向けた宣伝や長期的政治的な宣伝とは区別されなければならない。

 ここで注目されるのは、日本軍の将校などの特権階層、徴兵された日本人労働者や市民たち、労務者や現地住民たち、とそれぞれ区別して働きかけることが指摘されていることである。たとえば日本軍守備隊の中でも、朝鮮人や徴兵された労働者、あるいは現地住民は日本軍人の頑固さを持っておらず、またかれらは日本軍から抑圧的な扱いを受けているので、抑圧者を嫌っており、不和の材料が豊富であるというように指摘している。

 日本軍の中でも将校たち幹部とそれ以外の兵士たち、正規兵と現地召集の兵士、労働者として徴用された現地住民、朝鮮人、民間人などを区別して、それぞれに応じた働きかけをしようとするものだった。
 この報告書「心理戦」では、訴えるテーマとして次の7点をあげている。以下は筆者が簡潔にまとめた要約である。

     1 身体的に求める物への訴え。つまり飢えや疲労、休養や治療、食糧への欲求。

2 自己破壊をやめさせること。つまり無駄に自分を犠牲にしてしまえば、国や家族のために何ができるのか、と問いかけ、敗北し軍国主義精神が除去された日本があなたたちを暖かく迎えるときが来るだろう、と訴えることである。

3 面子を保たせること。「降参」や「降伏」、「俘虜」や「捕虜」という言葉は使わず、「武器を置け」とか「戦闘をやめよ」と言うべきである。

4 日本の指導者たちのウソを引用する。現実の戦況を知らせること、米軍が捕らえた者を拷問するという宣伝に捕虜の写真などを使って反駁すること、日本海軍が助けにくるというのはウソだということ、などを示す。

5 不和や摩擦を引き起こすような訴え。兵士たちの将校に対する、陸軍の海軍への、朝鮮人の日本人への、民間人の軍人への反感を促し、不和や摩擦を促進する。

6 法の権威とその尊重。米軍は合法的にその地域を占領し施政権を行使するのだから、その権威と法に従うように促す。

7 米軍とアメリカの産業の圧倒的な力を示す。

 

 ここでは「捕虜」や「降伏」という言葉を使わないように指示しているが、別の箇所では、それだけでなく「天皇」にも言及しないように確認している。
 この文書の第
2部には、実際のビラが多数収録されているが、そのなかにも「徴募労働者」向け、朝鮮人向け(ハングルで書かれている)、市民向け、短期工員向けなどのリーフレットが含まれている。
 そのなかで、「日本の市民に告ぐ
!!」と題されたリーフレットの内容(原文も日本語)を紹介しておこう(シリーズ・ナンバー509)。

「皆様が教えられて来た事とは凡そ反対に米国人は日本人市民に対して少しも敵愾心を持っていません。サイパン島だけで一萬八千百二十五名の老若男女が米軍の方に来ました。そして今では安全に保護され親切な米国人の待遇の許に楽しく其の日を送って居ます。只米国人が残酷であるといふデマ宣伝を信じて数名の人がはかなくもこの世を逝りました。

 米国人が残酷であると言ふ様な虚言を信じてはなりません。百聞は一見に如かず!代表者を選んで米軍の方に送りなさい。そしてその代表者が如何なる取扱を受けるかを御覧なさい。これ等代表者が皆様の所に帰って皆様を安全な所に誘導する事が出来ます。そうして皆様方には美味しい食物、冷たい水、着物、治療等が与えられます。昼間に来なさい。そしてその際皆様が兵隊と間違はれない様に白又は色付の着物を着て来なさい。一刻も早く来なさい。其処にはよい待遇が保証されています。」

  このように米軍は一般の市民には危害を加えず保護すると約束する内容となっている。
 19448月末という時点、つまりサイパン戦という多くの日本民間人を抱えた地域での戦闘の経験を踏まえて、日本軍はあくまでも最後まで抵抗するという狂信的な一枚岩の集団ではなく、うまく働きかければ士気を低下させ投降を促すことができると認識していたことである。さらに日本側の内部にも将校と下士官兵、徴兵された日本人、労務者、朝鮮人、現地の住民など不和や不一致があり、それらの亀裂を利用できるという認識も得ていた。太平洋方面軍はこうした経験を踏まえて、翌年の沖縄戦における心理戦の計画・準備に入っていくのである。

 こうした方針に基づいて、日本軍あるいは日本人集団の構成員をさまざまな異なる利害関係を持つ人々に分類し、対象ごとにその意識や心理状況を分析し、その対象に応じた宣伝内容を考えることになる。

ここでの紹介する調査報告書は、サイパンにあった米軍の島司令部Island CommandのG2(参謀2部)が、抑留した日本民間人500人を選んでおこなったものである。

アメリカは、出版されていた書籍・雑誌・新聞や、アメリカに在住する日系人を通じて日本人の意識分析をおこなっていたが、彼らは太平洋戦争下の日本社会を経験していないので、それらをデータとした分析がはたして、太平洋戦争下の日本人に適用できるのかどうかは、疑問があった。したがって、「狂信的な」軍国主義社会を経験している日本人たちの意識を生データに基づいて分析する必要があったのである。

島司令部は、サイパン占領後の同島の警備・治安維持と行政を担当した司令部である。その報告書がワシントンに送られ、1945331日付で海軍作戦本部から関係各所に配布されたので、島司令部による報告書の作成はもう少し前と思われる。なおこの報告書と同じボックスに整理されている別の報告書によると、194410月時点で、サイパンで抑留している民間人は7737人と報告されている。

 この報告書の内容は、まだ予備的な内容で十分に深められているとは言えないが、民間人が米軍への投降を拒む理由が、けっして愛国的な熱情や天皇への崇拝などではなく、米軍に捕まると殺されるか拷問されることへの恐怖であることがはっきりと示されている。このことは、沖縄戦においてもさらに実証されることになる。

いずれにせよ、このサイパンでの報告書は、アジア太平洋戦争下において、多数のサンプルに基づく、日本民間人についてのまとまった意識分析としては、最初の調査と言ってもいいかもしれない。

 この文書の原題は、Navy Department, Chief of Naval Operations, Central Division, Military Government Section, Military Government Field Report, No.52, “Japanese Civilian Attitudes on Saipan,” 31 March 1945(米国立公文書館所蔵RG208/Entry378/Box444)である。

 [参考文献]

林博史「日本人のアイデンティティと天皇―捕虜になった日本兵の天皇観」関東学院大学経  済学部総合学術論叢『自然・人間・社会』第38号、20051

林博史「沖縄戦における米軍心理戦研究の課題」(科学研究費補助金 基盤研究(B)海外学術調査研究成果報告書(研究代表者保坂廣志)『沖縄戦における日米の情報戦―暗号・心理作戦の研究』20063月)

林博史「沖縄戦と民衆―沖縄戦研究の課題」(三谷孝編『戦争と民衆―戦争体験を問い直す』旬報社、20084月)

 

[資料]

海軍省海軍作戦本部中央事務局軍政部  

軍政野戦報告 第52号「サイパンにおける日本民間人の態度」

 1945331

*この研究は、サイパン島の島司令部G2によってなされたものである。

 

日本民間人の態度についての研究

 

目的

 この研究は、日本の民間人が何を感じ、何を考えているのかを明らかにするための試みとして実施されたものである。その主要な目的は、われわれの宣伝の成果を評価するための基礎資料を得ることである。この対象集団には現在、「ハワイ・タイムス」が提供されており、一定の期間の後、かれらの意見に変化がないかどうかを再調査することになっている。しかし、この方法はまた、将来の宣伝の基礎となりうる事実のデータを提供しているように思われる。さらに日本の民間人の投降に対する態度を知ることは、今後の作戦において民間人を収容する方法を改善することに役立つだろう。
 今後新たに占領する地域において、占領確立後できるだけ早く、日本の民間人についてこれと同じタイプの研究がなされるよう勧告する。 

 方法

 一連の質問が準備され、日本民間人の小さなグループで試された。そこで修正が施された後、確定した書式の質問が作成された。質問をおこなう二世通訳には質問について説明がなされ、そのことによって通訳は求められている情報に完全に精通するようにした。時には、回答を引き出すためにかなりのやりとりが必要とされるからである。

 サンプルは、年齢、性別、職業、教育に応じて選別された。対象集団は、沖縄人と日本本土の者が適切な比率になるように選ばれた。本土の日本人と沖縄人との主な違いは、後者の方が教育水準が低いことであるようだ(注)。教育水準の違いには関わりのない見解については、両者の間には違いはないように見える。対象者は男の比率が大きすぎるが、質問への回答には性別の差が見られないようなので、このことは結果に影響を与えていない。

 対象集団は、彼らが捕らえられてから、戦争の経過について、主にチャモロたちからかなりの情報を得てきた。したがって彼らの知識は、まだ占領されていない地域の日本民間人たちの知識とはいくらか異なっている。
 時間が許せば、教育水準の違いや沖縄人と本土の日本人との違いを比較した分析データを得られるだろう。

 (注)沖縄人は実質的にはみな自分たちは日本人であると信じている。また日本人と沖縄人の間には違いはないと信じている。日本人のおよそ5パーセントが、沖縄人は劣った者たちだと考えている。

 

投降

 収容所の日本人のなかで、自発的に降伏したのは40パーセント以下である。

     捕らえられた者    309
   降伏した者      191   

 サイパン島占領から二か月半の後、多くの日本人が降伏するよりは、洞窟の中できわめて乏しい食糧で生きていくことを続けていた。投降を妨げた最大の障害は、捕まると拷問されるか殺されると信じていたことにあるようである。  

   拷問されると聞いた

      はい     360
         いいえ    140

 拷問されるという予想は、主にガダルカナルでの次のような話に基づいている。要するに、男や子どもたちは戦車やスチームローラーによって轢き殺され、女たちは船に連れて行かれて兵士や水兵らの慰みものにされるだろうという話である。朝日新聞や婦人公論、雑誌キングなど雑誌や新聞において、そのガダルカナルの話が数多く取り上げられてきた。しかしたいていの場合、追跡してみるとその話は兵士たちから民間人に語られたものである。

 幾人かの民間人は日本兵によって妨害されなかったならば、投降しただろうと語っている。このことは戦場での観察からも裏付けられる。
 民間人が投降することを妨げている理由は、愛国的な熱情よりは恐怖であることのさらなる証拠は、「捕らえられたときにどのように感じましたか」という質問への答に示されている。

      怖かった       348
       恥ずかしかった     79
    その他        105

  自決するという計画や考えに言及したものはまれである。捕らえられるよりは自決することが好ましいと信じていた者たちは大体自決しただろうが、そのようなことはこの対象集団の中では見られなかった。しかしながら、民間人の自殺に関しての新聞報道は非常に誇張されている。一部の民間人は確かに自決をしたが、その数は200人を超えたかどうか、あるいは人口の1パーセントを超えたかどうか、疑わしい。

 民間人を投降させた要因としては、食糧や水の不足とともに、ラウドスピーカーによる放送やリーフレット、そして山に隠れている民間人たちのところへすでに捕らえられた民間人を送り込んで状況を説明されたことのような宣伝が挙げられる。
 現時点において、民間人を投降させる方法のうちどれが有効かを評価することは不可能である。様々な方法についてのかれらの意見は次のようである。 

      リーフレット                 17
     ラウドスピーカー               53
     わからない・その他              55
     よく知っている人または親戚が洞窟に来る   378

 質問されたうちの約35パーセントは放送を聞くか、リーフレットを見ている。わが軍の宣伝に出会ったこの集団の中で、約四分の一はそれに影響を受けたと言っているが、その一方で、三分の二はリーフレットや放送はウソだと感じていた。しかしサイパンでの経験に基づいて今後用意されるものは、もっとよい成果を生み出すことは間違いない。

 日本にいる民間人がいかに行動するのかということについてのかれらの意見では、それはサイパンでの行動と同じではないという。「日本本土が進攻されたならば、民間人はどうすると思いますか」という質問への彼らの答は次のようである。 

    最後まで戦う       281
   希望がある限り戦う     27
   戦わない          79
   意見なし・その他     113

 「民間人は戦わない」と答えた79人のうち、約半数は「サイパンのようになる」と言っている。個別の自決あるいは集団自決に言及したものは、ほとんどない。

 

出来事についての知識 

 チャモロたちがアメリカ兵から聞いた、かなり多くのニュースが日本人にも伝えられているので、ここに挙げるデータは、日本人の戦争についての知識の実態を正確に示すものではない。いくらかの者たち、主に沖縄の農民たちはまったく無知である。米軍の上陸前にはアメリカについて聞いたこともないという者たちもいた。
                                      *訳注―数字は「正しく知っている者」の数

   昨年、日本は爆撃を受けたことがありましたか        310
 日本はオーストラリアに上陸しましたか           310
 日本はインドの大部分を占領しましたか           340
 アメリカはトラック諸島を爆撃しましたか          399
 アメリカの西海岸は、空襲によって大きな損害を受けましたか 422

 

戦争ならびに日米間の力の差についての意見

 サイパンが占領されたことによって、さらにまた大量の艦船や機械化された強力な力を見せつけられて、対象者集団の意見は当然のことながら変化した。「サイパンの戦いまではそれを信じていた」というコメントは普通だった。日本人たちはアメリカの工業力について驚きをもって気がついたのである。

    アメリカの工業力はずっと強力である   412    
          (回答不明)               21
      わからない・その他                                    67

回答には時々、「しかし日本は精神的にはより強力である」と言って条件をつけるものがある。質問を受けた者のなかには、日本が占領した国々で生産が始まれば、工業力はアメリカと同等か、あるいはそれを上回るだろうという信念を表明する者もいる。
  サイパン沖には、畏敬の念をおこさせるほどの大量のアメリカ艦船を見ることができるにも関わらず、半数以上の者は、日本の海軍は世界で最強だと信じている。

 世界で最強の海軍は?  

日本           270
                   アメリカ          70
                   わからない・その他    160 

  かれらの信念と、アメリカ海軍が日本の海域で活動をしているという事実との矛盾をわかった者の幾人かは、さまざまな理由付けをおこなっている。精神力はしばしば日本海軍の真の力として言及される。「わからない」と答えた者の多くは、サイパンでの出来事を、疑問をもつようになった理由として挙げている。

 「アメリカ海軍のほとんどは沈められましたか」という質問に、たった40パーセントだけが「いいえ」と答えている事実は、現在の状況下において、注目すべきことである。

     沈められた       100
   沈められていない    212
   わからない       188

  日本は戦争に勝つだろうという信念と、長期にわたる戦争になるだろうという信念との間に非常に強い相関関係がある。日本は勝つだろうと信じている者のほとんどすべては、同時に長期にわたる戦争になるだろうと信じている。

   誰が戦争に勝つだろうか 

     日本        264
            アメリカ       41
            わからない     195

  戦争はどれくらい続くだろうか 

    非常に長い     234
          短い         47
              わからない     219

  よく見られる回答が「私は日本人だから日本だ」というものである。サイパンでの戦いと戦場で見た米軍の機械化された力は、しばしばかれらが考えを変えた理由として挙げられる。

 

政府やその指導性についての意見

 日本の陸軍と海軍の指導者たちの行動は正しいという点について、意見の一致はまったくない。およそ半数はわからないと答えている。

    日本の陸軍と海軍の指導者たちの行動は正しいですか  

正しい       185
                   正しくない      74
                   わからない     241

  政府や天皇に関わる質問では、まごついて首尾一貫しないことが現れている。約五分の二は、天皇はこの戦争に賛成していないと感じている。しかし実際に日本政府を動かしているのは誰かと問うと、そう答えたうちの半数は「天皇」と答えている。

    天皇は戦争を支持している   138
      支持していない        198
        わからない          164

  「誰が実際に日本政府を動かしているのか」という質問に対して、かれらは次のように答えている。

    天皇        195
      軍部        136
      内閣         55
      わからない     114

  しかし、40パーセントだけが天皇が政府を動かしていると信じている一方で、内閣あるいは軍部を真の支配者として挙げた者たちの多くは、天皇によって率いられなければ、どのような政府も成功しないだろうと述べて、民主的な政府が成功することに異論を唱えている。

 サイパンの日本人たちには、民主的な形態の政府を望む気持ちはほとんどない。またそのような政府が成功するチャンスについてもあまり信じていない。

    民衆が支配する政府を望みますか

    はい        59
                    いいえ      290
                   わからない    151

   そのような政府がうまく機能すると思いますか

      はい        37
            いいえ      285
            わからない    178

  全体として、かれらはサイパンの行政機関に満足していた。

    行政機関に満足していましたか

   はい       285
               いいえ       86
               回答なし     129

 

アメリカ人ならびにアメリカ兵についての意見

 拷問を受けるか殺されることを予期していながら、それに代わって治療を受けたり親切な扱いを受けた人々について予想されるように、捕らえられる前と後とではアメリカ兵についての感情は急激に転換した。

    アメリカ兵についてのあなたの意見は?

     残酷・無慈悲          前376 → 後 12
     贅沢好き・臆病・精神的に弱い  前 36 → 後 35
     寛大・友好的・やさしい     前 20 → 後422

                   意見なし           前 89 → 後 51

  兵士ではないアメリカ人についての日本人たちの意見は、「穏やかなsoft」という言葉で最もよく表わされるだろう。もっともよく使われる言葉は、贅沢好き、金持ち、精神的に弱い、というものである。

    アメリカ人についての日本人の意見 

     ソフト        330
       残酷・無慈悲      59
       意見なし       139

 

情報源

 最も知的水準が低い集団は文盲の農民たちであり、かれらのなかには、米軍が上陸する前にはアメリカについて聞いたことがなかったというものがいる。最も知的水準が高いのはアメリカに行ったことがある大学卒業者たちである。予想されるように、最も知的水準が低い者たちの間では、口頭で伝えられるニュースが情報源として圧倒的である。比較的低い水準の者たちは情報源を一つしか挙げないのに対して、より高い水準の者たちは、通例のようにいくつもの情報源を挙げている。

 「アメリカがサイパンに来る前は、どのようにしてニュースを知りましたか」という質問への答は次のように分かれた(一人当たり一つ以上の答が可能だったので回答の合計は500を超えている)。

   情報源 

     ニュースを聞いたことがない   27
  
  映画                31
    
雑誌               129
   
 ラジオ               153
       新聞               315  
              口伝え              265

  日本によって利用された宣伝媒体のなかでどれがサイパンの人々に届いたのか、ということを知るための試みとして、「アメリカ人とはどういうものか、どれによって聞きましたか?ラジオ、演説、うわさ、映画、雑誌、新聞のどれですか」という質問をおこなった。

     演説        13
       ラジオ       29
       映画        66
       新聞       129 
            うわさ      157
        雑誌       174
        なし       198

         *若い世代からは学校という答もあった。

  アメリカが、日本人に対して、起きていることを伝えるのに、最もよい方法は何だと思いますかという質問をおこなった。何人もから出された興味深い提案は、サイパンからサイパンの人々が話す長波ラジオを使うというものである。この質問に共通に見られる回答の一つは、「ない」「日本人はアメリカ人が言うことは信じない」というものだった。

  アメリカが日本人に対して起きていることを伝えるのに、最もよい方法は何だと思いますか  

ラジオ          169
            リーフレット       128
            わからない・その他    210

 

その他の質問

「戦争が終わったら、どこに住みたいですか」という質問には、60パーセント近くが「日本」と答えている。

     日本           281
         サイパン          83
         その他・わからない    136   

  しばしば言及されるほかの場所は、アメリカ、オーストラリア、ジャワ、南海である。「誰が戦争で勝つのかによる」という答もいくつかあった。

 戦争の原因についての意見は、次の二つのグループに分かれる。

1 アジアを支配する日本の宿命ならびに拡張の必要性
        2 アメリカによる干渉と差別

      日本の宿命       143
             アメリカの干渉     105
             意見なし        267

  たったの三人だけが、戦争を始めた責任者として日本の軍人たちを挙げた。
   日本による中国とフィリピン支配の効果については明確な一致した世論はない。

   日本の占領は中国人やフィリピン人にとってよかったですか

      はい        171
      いいえ        49

             意見なし      28

    中国人やフィリピン人は暮らし向きがよくなったと感じていると思いますか?

       はい        164
              いいえ        71
              意見なし      265

  日本人たちが協力する意思があるかどうか確かめようとして、「あなたはアメリカのために非軍事的な性格の仕事を進んでするつもりはありますか」という質問をおこなった。もし回答が「はい」の場合には、さらに日本人がそういうことをするのは妥当だと思うかどうかという質問をおこなった。

      はい       479
          いいえ       21

 働こうという意思のある者のなかで69人だけが、そうするのは正しくないと感じている。他方、21人だけが働きたくないと思っている。

 

結論

 この研究で質問を受けた集団は、日本本土の人々のサンプルとしては適当ではないだろう。であるから、ここでの結論を日本人全体に適用することは慎重でなければならない。しかしいくつかの質問への回答は非常に明確であるので、サンプルの違いはそれほど影響を与えないだろう。

 圧倒的多数の民間人に関する限り、死や拷問への恐怖が投降することへの最大の障害物であることは明白であるように思われる。この信念を克服するために多くのことができるだろう。すでに抑留された民間人を使って、ラウドスピーカーで話しかけたり、直接接触させて、他の者たちを連れてこさせる方法は、おそらく最も有効な手法であろう。民間人収容所の人々の写真を入れたリーフレットを印刷できる印刷設備が望ましい。ただ文章だけしか書かれていないリーフレットは信用されない。

 アメリカの工業力の強さをほとんど全員が認めているが、そのことと、日本海軍が最強であり日本は最後には勝つという信念とは相反している。説明されなければならないことは、戦争を勝利に導く能力という点からの工業力の意味であるように思われる。