2007年11月27日10:00掲載

沖縄戦の「集団自決」への教科書検定について
文部科学省 教科用図書検定調査審議会に提出した意見書を公表するにあたって

                                  林 博史

 

 この意見書は、2007年11月22日付で郵送しました。3連休が入りますので、文科省に届くのは26日になると思います。それにあわせて、このホームページでも公表します。

 文科省からは、正誤訂正の手続きが終了するまでは、意見提出を依頼されたことも含めて公表を控えてほしいと依頼されていますが、そうした秘密裏に検定作業をおこなうことこそが、今回のような歪曲された検定がなされた大きな原因であると考えますので、そうした依頼は拒否し、広く市民に公開することにしました。記者会見をおこなう予定はありませんので、この場で公表したいと思います。

 今回、文科省が意見を依頼した人選そのものが不明朗であり、ほとんどの(あるいはすべての)沖縄にいる沖縄戦の専門家が排除されていることは、それが事実とすれば、大きな問題です(誰が意見を依頼されたかはまだ全体像が不明ですが)。
 ですから、文科省の秘密のベールの陰に隠れて、こそこそと検定作業がおこなわれるのではなく、検定過程をできるかぎり、ガラス張りにし、さまざまな議論が公開され、市民の目の前でおこなわれることが大事だと思います。

 そもそも先進民主主義国で、日本のような国家役人による教科書検定がおこなわれているのはまずありません。こうした検定制度自体が、お上が教育内容を決めるという天皇制国家の思想そのものであり、自由主義社会の基本理念に反するものです。教科書検定制度そのものを廃止すること、教科書は執筆段階から広く市民に公開し、研究者や教育者、市民の議論を重ねながら、そして教育実践のなかで練り上げられて、よりより教科書が作られていくべきであり、その過程に国家権力が強制力をもって介入すべきではありません。

 検定制度を直ちに廃止することができないとしても、さしあたり、検定過程をすべて公開すべきです。教科書の申請本、検定意見作成の過程(文科省役人の介入を排除することが前提)、執筆者とのやりとり、そうした過程への研究者、教育者、市民の議論参加、そして学界での議論に耐えうる検定意見の決定、それを参考にした教科書の自主的な修正、というプロセスが公開されておこなわれるべきです。検定意見は、あくまでも改善のための参考意見にとどめるべきであり、権力による書き換え強制は廃止すべきです。

  教科用図書検定調査審議会の委員には研究者が多数いるようですが、審議会委員の傲慢な姿勢は研究者としてあるまじき、不当な態度だと感じています。検定意見を決めるとは、あることは書いてはいけない、あるいはあることを書けと公権力を使って命令することを意味します。研究において、自ら正しいと考えることを主張し、異なる意見を批判することは大いにやるべきですが、それは相互に言論の自由が保障された場でやるべきです。自分がこうだと思うからといって、それを検定意見とすることは、自分がそうだとは思わない意見を公権力によって封じることであり、研究の精神とはまったく相容れないものです。研究の精神を否定したうえになりたつ教育とは、戦前の教育と同様に、教育そのものの否定でしかありません。現在の制度において、審議会の委員として検定意見を決める立場にあるということが、研究者としてあるまじきことをおこなっている、少なくともおこないかねない危険な役割であるという自覚と反省、節度が必要でしょう。

 なお正誤訂正の申請にあたって文科省からの圧力をはねのけて、記者会見をおこなって申請内容を発表した教科書執筆者の方がいます。公権力をバックに密室で物事を決めようとする役人や、公権力の陰に隠れて、研究者の精神を捨て去った審議会委員たち(全員がそうかどうかはわかりませんが)とは正反対に、権力を背景に持たず、市民に直接責任を持とうとする教育者としての勇気と誠意に心から敬意と支持の意を表したいと思います。

 

 

[意見書を読んでいただくにあたって]

 意見書には添付資料を付けています。資料1は、コピーで添付して提出しましたので、このファイルでは省略していますが、このホームページに掲載しています(→こちらからどうぞ)。資料2・3はご覧のように添付していますが、このホームページにも掲載済みのものです。

 この意見書をホームページやブログに転載することはご遠慮ください。
 リンクは自由にしていただいて結構ですが、pdfファイルに直接ではなく、トップページか、このページにリンクしてください。
 なお新聞などで掲載することは、どうぞ自由にやってください。記者会見で配布した資料と同様の扱いをしていただいて結構です。

      →提出した意見書(正文)  pdfファイル  全14ページ